耳赤の局(秀策、幻庵因碩)

2023/09/09

09.古碁を楽しむ

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*Wikipediaより「耳赤の局」
弘化3年7月21日(1846年9月11日)於浪華天王寺屋辻忠二郎宅、八十九手打掛、同23日(13日)、於原才一郎宅、百四十一手打掛、同25日(15日)、於中川順節碁会中之島紙屋亭 打終。

先:桑原秀策、井上(幻庵)因碩 325手、黒半コウ勝ツグ、黒三目勝ち。
(棋譜の手順が正しいなら実際は、黒二目勝ち)


日本囲碁体系第15巻の(秀策)」では、黒3目勝ち。

依田流並べるだけで強くなる古碁名局集」では、黒2目勝ち。

と棋書によって違いがあったのは、そういう理由でしたか。

棋譜結果表記は、3目勝ちとなっているが、棋譜の手順どおり終局まで打つと2目勝ちとなるということです。

棋譜の手順が正しいとみなして、黒2目勝ちが妥当かと思いました。


対局の背景

*対局の背景
十一世、井上幻庵因碩、準名人八段。
(注:幻庵は隠居してからの号)

本因坊丈和との、術策の限りをつくした名人争いに敗れ、愛弟子赤星因轍も丈和に打ち殺され(吐血の局)、自ら立った爭碁も気鋭の秀和に、はばまれて果たさず、宿願の名人碁所は手が届かぬままに終わった。

因碩は、江戸を捨て、しばらく大阪に定住した。

秀策は16才の時、4年ぶりに故郷(現在の広島県尾道市)に帰り、しばらく故郷で囲碁の勉強をしておりました。
18才の時に再び修行のため本因坊家に向けて出発、旅の途中で大阪に立ちより、そこで、幻庵因碩と対局することとなりました。

注目の初回は、秀策が手合いどおり(幻庵因碩は八段、秀策は四段)2子を置いて102手まで進んだところで、幻庵因碩は、「2つは手合い違いのようだ。この碁は打掛にし、明日あらためて先番を打とう。」



こうして、始まったのが有名な「耳赤の局」であります。いわれについては、Wikipedia等でご確認ください。

耳赤の一手は、「上辺の黒模様を盛り上げながら、右辺の白の厚みを消し、下辺に浮いている黒4子を応援し、左辺の白の薄みも狙う、まさに、一石四鳥の手である。」と言われています。

この碁がこのように有名になったのは、後世の人の影響であり、秀策自身も「名局」とは考えていなかったと思います。

ただ、18才で修行の身でありながら、名人の実力があるといわれていた幻庵因碩に、先で勝てたのは、大きな自信となったと思われますので、秀策の出世局とはいえると思います。


先:秀策、幻庵因碩

先:桑原秀策、井上(幻庵)因碩、1846年7月21日、24日、25日
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生

(左図)

黒1、3、5は、秀策流の布石です。

白6の大ゲイマシマリは当時としては珍しいです。

黒9は秀策のコスミ。現代でも立派な手として打たれています。

白10が大斜ガケです。幻庵因碩は、難解な大斜定石に誘導しています。


(右図)

白20と基本形を外しました。白20の押しは、幻庵の新工夫と言われており、難解型へと導こうとしています。

そして、黒25と秀策が定石を間違えてしまいました。

黒25は、シチョウが良いので、N2のケイマにスベるのが当時も定石でした。

ここから、秀策の大苦戦が始まります。

私としては、ここからの秀策のがんばりがこの局の見どころだと捉えています。


難解な大斜定石

(左図):実戦図、白30まで、(右図):黒失敗の参考図
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生
棋譜解説(数字、記号入り)

(左図)

実戦の進行です。白30と二段バネを喰らい、黒は窮屈であります。


(右図)

黒が一番やってはいけないのがこの参考図です。

黒は、まだ生きてなく、手入れをして生きても、白Aとポン抜かれては、オワです。
(注:オワとは、梶原武雄九段の造語で、既に終わっているの意。序盤早々で優劣が着いたとされる時に使います。)

鬼手の紹介

(左図):実戦図、黒39まで、(右図):白の鬼手の参考図
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生
棋譜解説(数字、記号入り)

(左図)

実戦の進行です。黒は31とキリを入れ、コウ材を2つ準備しました。

そして、黒33、35とハネ、黒39とコウでがんばりました。


(右図):参考図です。

白40とコウを取ったあと、黒1とノビるのは、白2の鬼手を喰らってしまいます。

黒3に白4とアテ、黒は取っても、次図のように取り返されてしまいます。


続:鬼手の参考図
棋譜解説(数字、記号入り)

(蛇足の参考図)

黒5と取っても白6と取り返され、それがアタリになっているので、黒7ともう一度取ることになりますが、白8と守られて、オワとなります。

時を戻して、実戦の白36のキリがこの手順を見越しての好手でした。


(左図):実戦図、黒53まで、(右図):黒53の変化図
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生
棋譜解説(数字、記号入り)

(左図)

黒41に切るコウダテは損ですが仕方のないところです。

黒51とコウを解消し、白を52と出させました。

黒53のコスミに違和感を覚えましたが、それに対しては、石田先生と依田先生の解説が右図のようにありました。


(右図)

黒53のコスミを黒1と押さえて、白2、4と黒1子をキリ取られると、将来、黒イ、白ロ、黒ハのキリ取りが先手にならないとのことでした。

このキリトリを先手にするための黒53のコスミでした。専門家の芸は細かいです。

こういうところは、解説を聞かないとアマチュアには分からないところでした。


秀策、反撃開始

(左図):白66まで、(右図):黒89まで
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜再生

(左図)

前図のように先手を取られるのをツラいとみて、白60と辛抱しました。

我々の世代ではこのように辛抱する手を「おしん」と言います。使われる機会は囲碁より将棋の方が多いです。

白62のヌキに黒63と生きなければならないのは、ツラいと思います。

後手二目の手を打たされているのですから。後手二目の手は最終盤で打つ手です。

しかし、秀策はここまで失点を最小限に抑えているようにも思えます。


(右図)

黒73とツケて反撃開始です。黒83、85は手筋です。すぐに切り取ってもよいくらい大きな手を残しました。

そして、黒89と打ち込み、戦線を拡大します。


耳赤の一手

(左図):白118まで、(右図):黒127の耳赤の一手まで
棋譜解説(数字、記号入り)
棋譜解説(数字、記号入り)

(左図)

前図の黒89に対して、カウンターの白90のツケです。

白96から98と白のパンチが入ります。黒111を余儀なくされ、ゆうゆうと白112とキリ取って生きます。

黒の先着の功はなくなり、ここまで、白の幻庵因碩の名局であります。


(右図)

黒127が有名な「耳赤の一手」です。

この碁は325手まで打たれ、黒の二目勝ちとなっております。


二日後の第2局は59手で打ち掛け、黒必勝の局勢なので、打ち継がなかったのだろうと言われてます。

第3局は中押し、第4局を二目勝ちと秀策は全勝で終えました。

この報はすでに伝わっておりましたので、本因坊家に戻ってすぐに秀策は五段へと昇りました。

後年、幻庵因碩は、「あのとき秀策は、すでに七段に劣らぬ実力があった」と語ったとされています。


最後に1857年、秀策が帰郷した際に、友人の石谷広策に与えた、「囲棋十訣」(いごじっけつ)の揮毫(きごう:毛筆で言葉や文章を書くこと)をご紹介いたします。

石谷広策には、秀策の棋譜を集めた書「秀策口訣棋譜」があり、そこで「先師碁聖秀策」と書かれたことが、秀策を碁聖と呼ぶ発端となったとのことです。

*囲棋十訣
不得貪勝(貪って勝とうとしてはいけない)
入界宜緩(敵の勢力圏では緩やかにすべし)
攻彼顧我(攻める時には自分を顧みよ)
棄子争先(石を捨てて先手を取れ)
捨小就大(小を捨て大を取れ)
逢危須棄(危険になれば捨てるべし)
慎勿軽速(足早になりすぎるのは慎め)
動須相応(敵の動きに応じるべし)
彼強自保(敵が強ければ自らを安全にすべし)
勢孤取和(孤立している時には穏やかにすべし)


  • 総譜は、こちらより、つぶや棋譜2 Viewerで、ご確認ください。
  • 手順は、図の左下にある青文字の「棋譜再生」でご覧いただけます。
  • つぶや棋譜2 Viewer左上にある「自動再生」にチェックで再生致します。
  • つぶや棋譜2 Viewer碁盤の下にある「NUM」で手順が表示されます。

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