棋書の紹介その29(名人名局選、秀和)

2023/09/08

02.棋書の紹介

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*初めにお断り
初めにお断りしておきますが、囲碁の本は、有名作家の小説にようにベストセラーになることはありません。
購買層が限られておりますので、出版してしばらくすると絶版になってしまいます。
ゆえに、ここでご紹介した棋書もすでに書店の店頭にはないかもしれません。
その点はご了承をお願いいたします。


  名人・名局選 秀和

著者:福井正明九段 誠文堂新光社


この対局の背景

*本書より、この対局の背景
丈和が退隠(たいいん:職を退き暇な身分となること)させられて、本因坊家は当主十三世丈策、跡目秀和となりました。

丈和と名人碁所を争った幻庵因碩は、この機をのがさず碁所願を公儀に提出します。異議を申し立て、争碁に持ち込もうとする本因坊家ですが、丈策の力では心もとなく、秀和を矢面(やおもて:敵の攻撃して来る正面)に立たせるほかありません。

しかし、名人碁所の争碁を跡目が打つのは異例で、丈策は窮地に立たされます。
必死の懇願で争碁にこぎつけましたが、この時の条件は、「秀和の先で四番碁、打ち分けならば、幻庵因碩の碁所を許可する。」ではなかったか、と推測されています。

その第一局が打たれたのは、1840年11月29日。
7回の打ち掛け、9日を要して秀和の4目勝ちとなりましたが、途中で下血した幻庵因碩は、健康に不安を覚えて争碁をいったん取り下げました。

その2年後、健康を回復した幻庵因碩が再度対戦の機会を得たのが本局です。

2009年1月 福井正明


福井正明先生は、岩本薫門下で1980年に首相杯優勝などの実績があります。

古碁の研究、発掘、紹介では碁界、唯一無二(ゆいいつむに)の棋士であります。


1842年5月16日打掛、17日夜通、18日昼九つ(現代の正午)打終。於・磯田助一郎宅

先先先の先番:本因坊秀和(七段)、井上因碩(八段)


激闘の始まり

(左図):黒29まで、(右図):白48まで
名人位を争う碁です。個人の争いではなく、本因坊家と井上家、家元の争いです。その重圧は、私には想像できません。

本因坊家は、まだ、当主ではない秀和を立てました。幻庵因碩から見れば格下です。

幻庵因碩は、本因坊家の当主である丈策との対局を主張しても良いのですが、秀和の実力を認め、受けて立った格好となります。

白28には、黒29と出る一手です。

繰り返しますが、名人位を争う対局です。黒29が激闘が始まる瞬間でありました。

古碁を鑑賞する際、特に布石においては当時の考え方、定石等がありますから、現代の目で批判するのは良くないと思います。一手一手の主張を考えながら鑑賞するのが良いかと思います。


(右図)
白34までグイグイと押し、調子で白36とデます。

一手のミスが即勝敗を分けそうな局面となりました。


白70まで互角の形勢

(左図):実戦図、白70まで、(右図):実戦の黒57を黒1とした時の参考図、
棋譜解説(数字、記号入り)
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(左図):実戦図、白70まで

*福井正明先生の解説
黒49、51とキッテてシチョウを見せ、白は52、54と防ぎました。
黒も53とひとつアテておけばシチョウもゲタもとりあえず防いでいます。
黒55のアテに白56とツイで味を残します。黒57と根本をツギ白のダメを詰めます。
白58の出に黒は59をキカして61のカカエ。白62を催促し、黒63、65といったん追い出しました。
白はかまわず66と上辺を大きく囲って中央は黒にまかせます。
黒67とさらに追いますが、白68と逃げ越されると黒69ははぶけません。
白70ボウシが四方をにらむ絶好点でした。


(右図):黒57の変化図

黒57の根本のツギを黒1とオサエた場合、白18までが想定されます。
(注:白4は、B12)

福井正明先生は、この図は、白の厚みが勝るとし、依田紀基先生もおそらく白がいいとの判定でした。

白70まで、AIの一手(無料のAIソフト)の評価値は、黒6.6目リード。コミがないので、初手から黒6.5目リードでしたから、白70まで形勢は動いておらず、全くの互角であります。


秀和、自信のポンヌキ

(左図):白164まで、(右図):黒225まで
棋譜解説(数字、記号入り)
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(左図)
初手から空いていた右下隅に黒が147手目でまわりました。

下辺の黒模様に白は158から手をツケてきました。白162、164とハネアげは手筋です。

次の黒165は右図にあるように白158のポンヌキです。これは秀和の形勢に自信ありのポンヌキです。すべての味を消すためのポンヌキでした。


(右図)
黒は219の先手ヨセから223(J4)、225(J6)と中央に数目の地を作り、これで勝ちがはっきりしました。との福井正明先生の解説です。

幻庵因碩の無念のあらわれ

(左図):右下隅白236からのモチコミ、(右図):死活の証明
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(左図)
白は、手のないことを承知のうえで、白236から手をつけてきました。

秀和が間違えることはなく、白はモチコミとなり、本来1目負けのところを5目損をして、6目負けとなりました。


(右図)
続けて打つと白1以下となり、黒6が妙手となります。
棋譜解説(数字、記号入り)
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(左図)と(右図)
前図の続きです。白1とツグ一手となります。

黒2のヌキに白3と取り返すことになりますが。


棋譜解説(数字、記号入り)

黒4ともう一度取り返せます。

この形は、隅のマガリ四目です。

この碁は270手まで打たれ、黒の6目勝ちとなっております。



*福井正明先生の見解
モチコミが幻庵因碩の見損じだったかどうか。

おそらくは、そうではなかったのでしょう。

どうしても1目足りないと知った時、この一局にアクセントを付けるため、あえてモチコミをしたのではないでしょうか。

1目負けも6目負けも同じ負けですし、手無しは分かっていて秀和が間違えるわけがないことも熟知していながらの着手に違いありません。

好局をのがした無念の心情が溢れ出たともいえるようです。


  • 総譜は、こちらより、つぶや棋譜2 Viewerで、ご確認ください。
  • 手順は、図の左下にある青文字の「棋譜再生」でご覧いただけます。
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    囲碁とは黒と白が交互に打って、自分の陣地の大きさを競うゲームであります。碁盤の目は361あり、黒白交互に打つと10の360乗ものパターンがあり、無限の世界と言われております。また、囲碁は、礼節を重んじ、礼に始まり礼に終わる競技でもあります。私はネット碁を楽しんでおりますが、ネット碁のおかげで囲碁は世界中に広まり、世界中で楽しまれるようになりました。囲碁に国境はありません。そんな囲碁の魅力や楽しさを少しでも伝えることができればと考えております。

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