吐血の局、丈和の三妙手の局

2023/09/07

09.古碁を楽しむ

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古典名局選集  「剛腕丈和」

著者:高木祥一(九段)日本棋院



*吐血の局の背景
丈和が一二世本因坊を継いでから、名人碁所をめぐる長い騒動が持ち上がったが、1831年丈和は、名人碁所を任命された。

これを無念に思う幻庵因碩は数年後、老中松平周防守の碁会に名を借りて、名人御止碁(めいじんおとめご:名人碁所になると公式対局は行わない)の丈和を対局の場に引きずり出すことに成功した。

そこで幻庵因碩は、自分に先で4連勝する実力の秘蔵の弟子である、赤星因徹を丈和にぶつけた。因徹は実質的には跡目で、実力は八段といわれていた。

八段の自分より、七段の因徹に負ける方が丈和のダメージが大きい。

もし勝てば、名人の資格なしとして引退を迫る意図である。

もちろん、丈和も幻庵因碩の思わくは読みスジである。そして、堂々と受けて立って全力を振り絞った。時に本因坊丈和、54才、赤星因徹、26才。

この時すでに赤星因徹は、肺結核に冒されていました。


吐血の局

先、赤星因徹(七段)、本坊坊丈和(名人)、1835年7月19日59手打掛、21日99手打掛、24日172手打掛、27日終、於:松平周防守邸

囲碁史上有名な「吐血の局」をご紹介いたします。

この局は「丈和の三妙手の局」とも言われております。

碁会には12名が参加し、6対局が行われましたが、外の10名は、この対局の意味するところを理解しているので、自分の対局など身に入らなかっただろうと思われます。

また、一門の盛衰を賭けたこの一局に、丈和の妻は浅草観音に願掛けをし、因碩は某寺に折伏の護摩を内密に依頼した。とありました。

(注:折伏(しゃくぶく)とは、執拗に説得して相手を自分の意見、方針に従わせること)


井門の秘手

(左図):黒33が井門の秘手、(右図):参考図
棋譜解説(数字、記号入り)
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(左図):実戦図、黒33まで

黒33(R18)のキリコミが井上門下で研究されていた「井門の秘手」であります。

井上家の秘手の存在については、噂だけは広まっていたそうです。


(右図):参考図

これは最悪のハマリの図。黒6で本コウとなります。このコウがネライの手です。


(左図):続参考図、(右図):続々参考図
棋譜解説(数字、記号入り)
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(左図):続参考図

白3と抜くのは、黒4で二段コウです。これも白の負担が重たいです。


(右図):続々参考図

最初に白1とカカエるのは、黒2を利かされて、あとは黒4(O18)のツケコシからビシビシと外をきめられます。

これは、白が相当に苦しいです。


秀和少年の指摘

(左図):実戦図、黒51まで、(右図):参考図、秀和少年の指摘
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(左図):実戦図、黒51まで

白50のシマリが昔から問題視されていました。ここは、上辺に厳しく迫るべきとのことで、T17(51の右)やH16(51の下)と黒に攻撃するほうが良いとのことでした。

黒51とヒライては、上辺の黒一団は一安心。黒が楽な布石となりました。


(右図):秀和少年の参考図

後年、この碁を丈和が自慢げに並べて門人に見せていたところ、秀和少年(16才)が、「白44で、どうして、白1とサガらないのですか?」と質問し、丈和は、にがりきったといいます。

福井正明先生の解説によると次のとおりです。

「秀和少年の指摘した白1には、白A、黒B、白2、のデギリを防いで、黒2と補うくらいのもの。 黒2で、Cを強行しても、白Dでデギリと5のトビダシを見合いにされる。白3とマガリ、黒4に白5とヒラけば実戦とは大差である。」

丈和は、引退時に師匠である元丈の子、丈策を当主に、秀和を跡目とし、本因坊家は、その後、幻庵因碩と戦うこととなりました。


丈和の三妙手

(左図):実戦図、白76まで、(右図):参考図
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(左図):実戦図、白76まで

黒65、67とキカシに来たところをカウンターの白68のオキ!

三妙手のその1です。白70が三妙手のその2です。

黒71の守りが省けず、先手で白72の打ち込みにまわりました。

白が序盤の劣勢を少しづつ縮めています。

高木祥一先生は、「白68があれば、白70は気がつきやすいが、黒67とハネられた瞬間、ワタリのない白68は、やはり丈和ならではの妙手といえよう。」と述べていらっしゃいます。


(右図):黒71の守りが必要の証明の参考図

黒71では、黒1と左辺を守りたいところなのですが、白2(S13、黒3の上)からの味があり、とても打ちきれません。


打ち掛けの局面の指定は、上手(うわて)の権利です。この碁は19日に59手まで、21日に99手まで24日に172手までで打ち掛けとなっております。

打ち掛けの間、門下で研究することもできます。

最後の172手までの打ち掛けは、黒に手番を渡しており、それは、丈和の自信の表れともとれます。


(左図):実戦図、白80まで、(右図):参考図
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(左図):実戦図白80まで

白80が三妙手の最後の三番目です。アキ三角の愚形で愚直な一手です。

丈和の三妙手とは、後世の人が名付けたわけで、福井正明先生は、次のように述べられています。

「黒79とノビキっって隅への狙いを強調したとたん、アキ三角の愚形で反撃したのが当時の碁客(ごかく:碁を打つ人)の琴線に触れたのだろう。」

(注:琴線(きんせん)に触れるとは、心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して,感動や共鳴を与えること)


(右図):参考図

坂田栄男先生は、黒79で、80とし、白がAと左下三子を補強したときに、左上隅へ手を付けるのが良いと解説されております。

また、藤沢秀行先生は、実戦の白80のあとの81を、黒B、白C、黒Dと冷静にツケヒケば、簡明に黒が優勢と解説されております。

白80までの形勢は、先番の利を守り、黒がよいとのことですが、このあと、実戦は隅に手を付けていき、形勢は急接近することとなります。

この碁は、246手まで打たれ、白の中押し勝ちとなっております。

この対局の2か月後に赤星因徹は、肺結核により亡くなっておりますので、とうてい、このような大勝負を打てる身体ではなかったと思われます。


  • 総譜は、こちらより、つぶや棋譜2 Viewerで、ご確認ください。
  • 手順は、図の左下にある青文字の「棋譜再生」でご覧いただけます。
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