著者:高木祥一(九段)日本棋院
これを無念に思う幻庵因碩は数年後、老中松平周防守の碁会に名を借りて、名人御止碁(めいじんおとめご:名人碁所になると公式対局は行わない)の丈和を対局の場に引きずり出すことに成功した。
そこで幻庵因碩は、自分に先で4連勝する実力の秘蔵の弟子である、赤星因徹を丈和にぶつけた。因徹は実質的には跡目で、実力は八段といわれていた。
八段の自分より、七段の因徹に負ける方が丈和のダメージが大きい。
もし勝てば、名人の資格なしとして引退を迫る意図である。
もちろん、丈和も幻庵因碩の思わくは読みスジである。そして、堂々と受けて立って全力を振り絞った。時に本因坊丈和、54才、赤星因徹、26才。
この時すでに赤星因徹は、肺結核に冒されていました。吐血の局
先、赤星因徹(七段)、本坊坊丈和(名人)、1835年7月19日59手打掛、21日99手打掛、24日172手打掛、27日終、於:松平周防守邸
囲碁史上有名な「吐血の局」をご紹介いたします。
この局は「丈和の三妙手の局」とも言われております。
碁会には12名が参加し、6対局が行われましたが、外の10名は、この対局の意味するところを理解しているので、自分の対局など身に入らなかっただろうと思われます。
また、一門の盛衰を賭けたこの一局に、丈和の妻は浅草観音に願掛けをし、因碩は某寺に折伏の護摩を内密に依頼した。とありました。
(注:折伏(しゃくぶく)とは、執拗に説得して相手を自分の意見、方針に従わせること)
井門の秘手
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(左図):実戦図、黒33まで
黒33(R18)のキリコミが井上門下で研究されていた「井門の秘手」であります。
井上家の秘手の存在については、噂だけは広まっていたそうです。
(右図):参考図
白3と抜くのは、黒4で二段コウです。これも白の負担が重たいです。
(右図):続々参考図
最初に白1とカカエるのは、黒2を利かされて、あとは黒4(O18)のツケコシからビシビシと外をきめられます。
これは、白が相当に苦しいです。
秀和少年の指摘
白50のシマリが昔から問題視されていました。ここは、上辺に厳しく迫るべきとのことで、T17(51の右)やH16(51の下)と黒に攻撃するほうが良いとのことでした。
黒51とヒライては、上辺の黒一団は一安心。黒が楽な布石となりました。
(右図):秀和少年の参考図
後年、この碁を丈和が自慢げに並べて門人に見せていたところ、秀和少年(16才)が、「白44で、どうして、白1とサガらないのですか?」と質問し、丈和は、にがりきったといいます。
福井正明先生の解説によると次のとおりです。
「秀和少年の指摘した白1には、白A、黒B、白2、のデギリを防いで、黒2と補うくらいのもの。 黒2で、Cを強行しても、白Dでデギリと5のトビダシを見合いにされる。白3とマガリ、黒4に白5とヒラけば実戦とは大差である。」
丈和は、引退時に師匠である元丈の子、丈策を当主に、秀和を跡目とし、本因坊家は、その後、幻庵因碩と戦うこととなりました。
丈和の三妙手
黒65、67とキカシに来たところをカウンターの白68のオキ!
三妙手のその1です。白70が三妙手のその2です。
黒71の守りが省けず、先手で白72の打ち込みにまわりました。
白が序盤の劣勢を少しづつ縮めています。
高木祥一先生は、「白68があれば、白70は気がつきやすいが、黒67とハネられた瞬間、ワタリのない白68は、やはり丈和ならではの妙手といえよう。」と述べていらっしゃいます。
(右図):黒71の守りが必要の証明の参考図
黒71では、黒1と左辺を守りたいところなのですが、白2(S13、黒3の上)からの味があり、とても打ちきれません。
打ち掛けの局面の指定は、上手(うわて)の権利です。この碁は19日に59手まで、21日に99手まで24日に172手までで打ち掛けとなっております。
打ち掛けの間、門下で研究することもできます。
最後の172手までの打ち掛けは、黒に手番を渡しており、それは、丈和の自信の表れともとれます。
(左図):実戦図、白80まで、(右図):参考図
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(左図):実戦図白80まで
白80が三妙手の最後の三番目です。アキ三角の愚形で愚直な一手です。
丈和の三妙手とは、後世の人が名付けたわけで、福井正明先生は、次のように述べられています。
「黒79とノビキっって隅への狙いを強調したとたん、アキ三角の愚形で反撃したのが当時の碁客(ごかく:碁を打つ人)の琴線に触れたのだろう。」
(注:琴線(きんせん)に触れるとは、心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して,感動や共鳴を与えること)
(右図):参考図
坂田栄男先生は、黒79で、80とし、白がAと左下三子を補強したときに、左上隅へ手を付けるのが良いと解説されております。
また、藤沢秀行先生は、実戦の白80のあとの81を、黒B、白C、黒Dと冷静にツケヒケば、簡明に黒が優勢と解説されております。
白80までの形勢は、先番の利を守り、黒がよいとのことですが、このあと、実戦は隅に手を付けていき、形勢は急接近することとなります。
この碁は、246手まで打たれ、白の中押し勝ちとなっております。
この対局の2か月後に赤星因徹は、肺結核により亡くなっておりますので、とうてい、このような大勝負を打てる身体ではなかったと思われます。
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